『Ray』歌 : レイ・チャールズ「You Don't Know Me」

ロック、ジャズ、ヒップホップなどの音楽や映画。〝男〟を感じるものを常に好いてきた高岩 遼のフェイバリットな映画とそれにまつわる音楽を、〝高岩流の男の美学〟として紹介していきます。文章・絵:高岩 遼


 

”天才”とアメリカが国を挙げて評価したアーチストがいたもんだぜ。レイ・チャールズ・ロビンソンは、1930年ジョージア州で産まれた盲目のシンガーだ。”ジーニアス”の冠にふさわしい才能と功績は言うまでもねぇ。”ブラックミュージックの父”を数えたら、およそ何十人もいるだろうけど、レイ・チャールズはギリシャ神に置き換えりゃ、ゼウス、ポセイドン、ハデスのひとりに君臨する。あれよ、神様だな。

 

個人的な話だけど、俺の右肩には、彼のポートレートのタトゥーが入ってる。ファーストタトゥーも”Ray”の文字だったな。中学に入学する直前、叔父がダビングしてくれたVHSには当時放映された洋楽MV全4夜が収録されていた。そのエンディングに「We Are The World」が流れたんだ。そこに、神様が現れた。全身に稲妻が走り、毛穴は広がり、恐れ慄いた。以降、高岩 遼は歌手となる……(続きは自叙伝)

 

マイルス、チェット、ジミヘン、JBと、最近増えましたねミュージシャン伝記映画。いろんな批評を受けるこの類だが、今回紹介する『Ray/レイ』は、コメディアンで自身も歌手である主演のジェイミー・フォックスが見事に演じきりまして、アカデミー主演男優賞を受賞した。信者の俺からしてみても、素晴らしい映画だったと思うな。口パクとは思えない音源と演技のシンクロは驚かされる。レイ・チャールズを知らない俺のダチ公は大体「ほんとに歌ってると思ってた」って口揃えて言うよ。もう少しジェイミーの声でカヴァーを聴きたかったんだけどね。

 

大事なシーンで、俺の大好きな曲が流れ始めた。みんなにもあるだろ? 青春の1曲。

 

♪You give your hand to me 君は俺に手を差しのべてさ
♪And then you say hello 「(遼くん)おはよ」って言うじゃん
♪And I can hardly speak 実は全然喋れなくなっててさ
♪My heart is beating so 心臓が高鳴っちまってるんだよ
♪And anyone can tell 君も他の奴らと同じように
♪You think you know me well 俺がどんな男か知ってるつもりかい
♪But you don’t know me いいや君は俺のことを知らない 君は俺の気持ち知らないだろ

 

は! マジで良い曲だぜ。男の片想いソング。あのころは青く晴れたあの空がなんとも皮肉に見えたもんだぜ。中学校ずーっと好きな娘がいてさ、この曲流しては枕を濡らしてたもんよ。今でもこの曲聴けば、あの空を思い出す。 音楽っていいよな。「You Don’t Know Me」は元はカントリーのスタンダードで、レイ・チャールズが唄ってヒットしたんだ。コーラスとストリングスの入る、極上のバラッドだぜ。恋するフォーチュン男子は必聴。

 

冒頭で”ブラックミュージックの父”と書いたが、レイ・チャールズはジャンルの壁を飛び越えた人間だった。アフリカンアメリカンのプライドはもちろん持ち合わせていたんだろうが、盲目であるためか自分の音楽に馬鹿みたいに素直だった。ゴスペルやブルースといった黒人スピリチュアル性の高い音楽に、R&R(ロックンロール)など風俗的なダンスミュージックをブチ込みこねくり、批判されながらもR&B(リズム&ブルース)を創った。カウントリーやウエスタンの要素の強い音源も多い。俺は勝手に共感が持てるんだよね、高岩 遼もよく「いろいろとまったく違うことをしてるんですね」と言われる。いいんや、すべては繋がってる。ジャンルなんてねぇのよ。

 

歴史や伝統、ルールやしきたりを崩し、まったく新しい何かを建設する。人の目を気にしないには勇気がいる。だが、その壁を壊した先、きっと”光/Ray”が見えてくる。

 

やっちゃえ、タフガイ。