CULTURE
1990年代後半から駆け抜け続けてきた20数年
BRAHMANは今年結成24年目に突入する。ベテランとまで言わないが、中堅クラスと呼んで差し支えない歴史とキャリアを積み重ねてきた。そして、今年2月9日に行われた初の日本武道館公演は、BRAHMANにしかできない画期的かつ挑戦的なパフォーマンスだった。もっと平たく言えば、誰もやったことがない、今まで観たことがないような武道館でのライヴを作り上げた。早くも今年のベストライヴ候補のひとつに挙げていい。あの衝撃と感動の余韻は未だ抜けそうにない。今回の日本武道館公演は、1995年の結成から今日に至るまでのBRAHMANの歴史が凝縮されていたように思う。
彼らが結成したころはインディーズブーム前夜であり、それぞれのバンドが鎬を削り合って、地下のライヴハウスで活動を続ける日々だった。その後、Hi-STANDARDが1997年に開催した初の野外フェス”AIR JAM”は大きなカルチャームーブメントとなる。その状況の中でBRAHMANは、翌年1998年に記念すべき1stアルバム『A MAN OF THE WORLD』をリリースし、いきなりのメガヒットを記録。いつの間にか”AIR JAM”系というくくりの中で語られるバンドとなった。とはいえ、BRAHMANの音楽性はどこにも属さないオリジナリティの高いものだ。パンク、ハードコアといった荒々しいサウンドに民族音楽のエッセンスを融合させる。最初の発想からして、普通のバンドとは一線を画す着眼点。そんなどこにも埋もれず、どこにも紛れない、唯一無二のオリジナルの音楽スタイルを掲げ、シーンを駆け抜けていく。
2000年はハイスタの活動休止に伴い、インディーズバブルは一旦落ち着きを取り戻した。その代わりに日本語パンク、日本語ラップなど新たなシーンの動きもあり、また違う形で盛り上がっていく。2000年代のBRAHMANは己と対峙するように自身の音楽性をより研ぎ澄ませ、孤高のポジションを築き上げることに腐心した。そのピークとなったのが、4thアルバム『ANTINOMY』だろう。硬質なハードコアに傾斜し、冒頭曲「THE ONLY WAY」という曲名が物語るとおり、己の道を邁進する強靭なサウンドを作り上げた。
そして日本にとって、BRAHMANにとっても大きな転換点と言えるできごとが起きた。そう、2011年3月11日の東日本大震災だ。多くのバンドが音楽を鳴らすことに懐疑的になり、自粛ムードが蔓延する中、TOSHI-LOWを筆頭とするチームBRAHMANは、ボランティア活動に励み、また余震が続く最中で、誰よりも早くライヴハウスの扉をこじ開け、そこでBRAHMANとしての決意表明とも呼べるライヴを行った。売名行為、誹謗中傷、そんな外野の声に耳貸すことなく、爆音を搔き鳴らすことで誰かの心に寄り添うことを決意したのだ。
BRAHMAN、覚醒の瞬間である。黙っているよりも叫ぶこと、じっとするよりも動くことを選択した彼らの奮闘ぶりは多くのバンドマンやミュージシャンを刺激しアクションを起こさせた。震災以降、TOSHI-LOWは一切MCをしないこれまでのスタイルを解禁し、ライヴでは観客に熱く語りかけるようになり、2013年には全編日本語詞による5thアルバム『超克』をリリースする。「自分に響かせたかった」とTOSHI-LOWは当時語っていたが、よりダイレクトな言葉をなによりも自分が欲していたのだろう。それが聴き手の心をも激しく揺さぶった。
今を見つめ、そして今を生きて、今を鳴らすBRAHMAN
あれから5年の歳月を経て、最新6thアルバム『梵唄 -bonbai- 』が2018年2月7日にリリース。その内容は、日本語詞メインの楽曲が揃う中に英語曲「EVERY MORE FOREVER MORE」を差し込んだりと、変幻自在の新しいBRAHMAN像を確立したように思う。さらに外部のミュージシャンとのコラボ曲を多数収録する初の試みも実施。前作『超克』から5年という時間の流れ、そこで出会った人たちを積極的に巻き込んだ作風こそ、BRAHMANの新境地と言えるのではないか。
そんなアルバムのリリースも間もない時期に行われた、バンド初の単独日本武道館公演は『梵唄 -bonbai- 』の世界観を体現すると同時に、デビュー時から貫くBRAHMANの揺ぎないサウンドを証明する圧巻の振れ幅を叩き付けた。場内に入ると、約5年前の『超克』ファイナルの幕張メッセ公演と同類のシステムである360度オールラウンドの八角形ステージが目に飛び込んできた。開演前からどんなライヴが展開されるのか、胸騒ぎを覚える景色が広がる。だが、ショウは始まりからあっと驚く展開。ステージ側面には4面のLEDスクリーンを設置。天井にはプロジェクションマッピングを施し、日本武道館というハコに新たな光を当てる演出効果を行った。それからTOSHI-LOW、KOHKI、MAKOTO、RONZIがアリーナ端からプロレススタイルの入場でステージに立ち、「THE ONLY WAY」で本編開始。「SEE OFF」、「BEYOND THE MOUNTAIN 」などといった初期曲を織り交ぜつつ、演奏は加速度を上げ、観客も序盤から異様な盛り上がりを呈す。
それから最新作『梵唄 -bonbai- 』収録のコラボレ-ト曲の口火を切ったのは「怒濤の彼方」。東京スカパラダイスオーケストラから谷中 敦(B.Sax)、GAMO(T.Sax)、北原雅彦(Tb)、NARGO(Tp)の4人を招き、計8人の男たちがところ狭しと八角形ステージに居並ぶ様は壮観だった。爽快なホーンの音色と無骨な演奏でらしさを主張するBRAHMANとのコントラストは、ライヴでひと際輝いていた。また、ハナレグミを呼んで披露した「ナミノウタゲ」も素晴らしい。ライヴ中盤には、北海道出身のあの2組が彼らの下へと駆けつける。「守破離」ではSLANGのKO、「ラストダンス」においてはTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINOとの激越コラボを見せつけ、レベルミュージックの凄味を日本武道館に轟かせた。後半に差し掛かると、「今夜」を親友・細美武士(the HIATUS/MONOEYES)がコーラスを務めてプレイし、曲終わりにTOSHI-LOWと細美がお互いを讃え合うように抱きしめあった。その光景は今思い出しても実に美しい。続く「満月の夕」では中川 敬(ソウル・フラワー・ユニオン)、山口 洋(HEATWAVE)、うつみようこの3人がステージに上がり、計7人による演奏に多くの観客が釘付けとなる。阪神淡路大震災から東日本大震災と歌を紡いで後世にも伝えたい。そんな祈りも似た音色が日本国旗が吊るされた日本武道館で鳴り響く様には胸を突かれる思いだった。ラストは『梵唄-bonbai- 』のオープニング曲「真善美」。生と死を歌い続けてきたBRAHMANが放つ、”今を生きろ!”という強烈なメッセージに目が覚めるような感覚に陥った。
人と人が出会い、そこで何かを託して、次の世代に繋げていく。今回のライヴはBRAHMANが伝えたいことを、音楽の力で100%見せつける内容となった。後にも先にもこんな日本武道館公演はないだろう。そう思えるほど素晴しいショウだった。彼らはこれからも多くの人たちと出会いながらも、自分たちでその道を切り開いて行く。その行く末をこれからも見続けていきたい。
Live Information
BRAHMAN “八面玲瓏”
2月9日 @東京・九段下 日本武道館
SET LIST
01. THE ONLY WAY
02. 雷同
03. 賽の河原
04. BASIS
05. SEE OFF
06. BEYOND THE MOUNTAIN
07. DEEP
08. Speculation
09. 其限
10. 怒涛の彼方(with NARGO/北原雅彦/GAMO/谷中 敦 from 東京スカパラダイスオーケストラ)
11. AFTER-SENSATION
12. 終夜
13. ナミノウタゲ(with ハナレグミ)
14. A WHITE DEEP MORNING
15. 守破離(with KO from SLANG)
16. ラストダンス(with ILL-BOSSTINO from THA BLUE HERB)
17. 不倶戴天
18. ARRIVAL TIME
19. ANSWER FOR…
20. 警醒
21. 今夜 (with 細美武士)
22. 満月の夕 (with 中川 敬、山口 洋、うつみようこ)
23. 鼎の問
24. FOR ONE’S LIFE
25. 真善美
- BRAHMAN Profile
1995年に結成され、TOSHI-LOW(Vo)、KOHKI(Gt)、MAKOTO(Ba)、RONZI(Dr)の4人編成で現在に至る。1998年に1stアルバム『A MAN OF THE WORLD』を発表し、好セールスを記録。2011年3月11日に起きた東日本大震災のときには積極的にボランティア活動を実施。それ以降はライヴでMCを行ったり、またサウンド面でも変化を遂げ、結成23年目にしてなお精力的に活動している。
※本ページは『warp MAGAZINE JAPAN』2018年5号に掲載された情報を再編集したものです。