CULTURE

長尺のリリックが会場を熱狂の渦に巻き込むレッドブル主催のラップバトル、MOL53 が圧巻の勝利

Red Bull Roku Maru 2024

即興性と音楽性が求められる 60 秒・2 ラウンド制のラップバトルにおいて、ヒップホップカルチャーを前面に出したスタイルで会場の空気を味方につけ、見事優勝!


 
 

 
2024 年最初に開催されたフリースタイル・ラップバトルの大会、「Red Bull Roku Maru」が1月6日(土)に東京・渋谷の「WOMB」で行われた。このイベントは、レッドブル主催のもと、日本のヒップホップ・シーンに新たな刺激と活気をもたらした。
2021 年から始まった「Red Bull 韻 DA HOUSE」から「Red Bull Roku Maru」へとリニューアルした今大会。1 対 1 のフリースタイルバトルで、各自の持ち時間は 60 秒の 2 ラウンド制。3 人のジャッジ(審査員)による投票で勝敗を決めるトーナメント。
日本ではめずらしい時間制のフリースタイルバトルで、バトル特有の即興性に加えて、1 分間で”作品”を作り上げる音楽性が求められるバトルが繰り広げられました。即興のリリックと独創的なスタイルで競い合い、観客を熱狂させたこの大会は、2024 年の日本ヒップホップ・シーンにおける記念すべき一歩となった。

 
 

 
今大会の参加 MC は、Yella goat、Fuma no KTR、MAKA、龍鬼、瀧澤彩夏、Ry-lax、NARIMIMI、RunLine、呂布カルマ、DOTAMA、018、SATORU、MOL53、COCRGI WHITE、L.B.R.L、そして予選を勝ち抜いたgable の 16 人。ベテラン、若手といずれもシーンから注目を集めるメンバーが名を連ねた。
審査にあたったのは、レジェンドの漢 a.k.a. GAMI、ERONE、KEN THE 390 とバトルシーンを支えてきた 3 人の重要人物。
また、ホスト MC として怨念 JAP と ACE が舞台を盛り上げ、会場の熱気を高めた。さらに、DJ ブースでは DJ YANATAKE と DJ TIGU が腕を振るい、安定したパフォーマンスでバトルのリズムを刻んだ。
ゲストライブには SKRYU が登場。「超 Super Star」「Mountain View」などのヒット曲のほか、YouTubeで MV が 1100 万回以上も再生されるなど、2023 年を代表するバイラルヒットとなった「How Many Boogie」を、大会にも出場した Fuma no KTR を呼び込んで披露。ヘッズを盛り上げた。
1 回戦のオープニングバトルとなったのは、Yella goat と Fuma no KTR。フロー巧者同士のバトルは初めからハイレベルな戦いに。ステージ全体を使いながら、Fuma no KTR が開始から飛ばしていくと、Yella goat はメロディアスなフローで応戦したが、勢いに押される形で Fuma no KTR が勝利を手にした。
シーンに彗星のように現れた「アイドルラッパー」瀧澤彩夏は Ry-lax と対戦。先攻後攻の決定から、Ry-lax が「Lady first」と COCRGI WHITE の言葉を”サンプリング”して、試合開始前から会場の空気をつかんだ。急成長を見せる瀧澤彩夏も同じ「Lady first」とバースを蹴って口火を切りましたが、Rylax が円形のステージを生かして観客とグータッチをするなど巧みなステージングで流れを離さず勝利を手に。
 
 


 
1 回戦で最大の盛り上がりを見せたのは、呂布カルマと DOTAMA の一戦。優勝候補同士が初戦で当たるとあって、入場から会場のボルテージは上がります。先攻の DOTAMA が「対戦相手は呂布さん、マイメン」と親しみをこめつつ、「まあ良い勝負できるよ、かろうじて / これが俺からの社交辞令」と皮肉を吐いて”らしさ”全開。呂布カルマも「きっつ、人生で一番長い 1 分間だったかも」と応じて、「俺は 1 分間じゃ足らねぇくらいベロと頭が回っているぜ」と自らのバースを締めくくります。互いに「らしさ」がぶつかりあうバトルで、勝利を手にしたのは呂布カルマ。
そのほか、格闘技大会などでも存在感を発揮し、ジャンルレスに活躍するSATORU が登場。独特のステージングと、フリースタイルでも着実にスキルを積み重ねていることを見せつけるフローで観客を沸かせた。
COCRGI WHITE は「シグネチャームーブ」ともいうべき、座り込みのスタイルで対戦相手の L.B.R.L に背を向け「俺以外の 60 秒が安くなる」「俺の後ろのやつの声なんて」と若手を相手にしないスタイルを見せた。参加した MC それぞれが、相手をディスするだけでなく、自身の音楽性やスタイルを示していく、レッドブルの大会ならではのバトル風景が広がった。
様々なベストバウトが生まれた大会にあって、決勝は MAKA と MOL53 に。準々決勝で COCRGI WHITE、準決勝で呂布カルマという強豪を立て続けに下した MOL53 が先攻となると、試合を一気に押し切ってしまいました。
MAKA は今大会に出場していない同郷のラッパーや格闘技大会で結果を出した SATORU などを効果的にネームドロップして会場を沸かせたが、MOL53 のパンチラインには及ばず。
 
 

 
圧巻は MOL53 の 2 本目。「これがラストだ、聴いておきな」というシャウトから始まったバースは、MOL53 が観客に向けて「俺らのシーンは終わらない」「俺の音楽をパワーでねじ伏せようとするやつに応戦するぜ」「勝ち方、客の上げ方 そんなもん必要ねえだろ 耳かっぽじってよく聴きな」とヒップホップカルチャーを前面に出したスタイルで会場の空気を味方につけ、優勝を手にした。
優勝後のウィニングラップでは、「2024(年)、アタマから災難ばかりがある」と切り出すと「日本が大変な時だ バトルなんかやっているヒマじゃねぇけど マイクで与えられるものはなんだ」「得たものよりも与えたもの 何かをつなげていこう」と語りかけるように、歌い上げた。
自然災害や大規模事故に揺れる日本社会にあって、ヒップホップに何ができるか――。そう訴えかけるようなラップは、エネルギーに満ち、それぞれのスタイルがぶつかり合った大会を象徴するものになった。激動の年初に行われた「Red Bull Roku Maru」の意味を代弁するような大会の締めくくりとなった。

今大会の 15 試合からRED BULLが選んだベストバウト 3 戦を紹介!

① 準々決勝 – Fuma no KTR × MAKA
拮抗していた「頂上決戦」、フロー巧者が 60 秒で魅せたスキル
 

 
フリースタイルラップは進化が著しい。
国内で開催された大規模な MC バトルだけを見ても、20 年以上の歴史がある。
長い歴史の中で、その時々のトレンドを踏まえながら、表現方法は幅を広げてきた。押韻の技術はさることながら、ラップの「フロー」のそれは、まさに日進月歩というところだ。
今のシーンにおいて、フローは欠かせない技術だが、それを使いこなすのがFuma no KTR と MAKA。
この二人が準決勝で相まみえた。当然、フロー勝負になる。二人もそれを意識していたようで、Fumano KTR は一本目から、早口でたたみかけるように「相手が MAKA とかマジまさかだ 仲良いやつと全く当たりたくなかったがまぁ仕方ない」とよどみなく繰り出す。対する MAKA も声の高低を織り交ぜながら、早口から始め、次第にラガスタイルへ。これも、彼の十八番だ。
勝敗はフローが分ける。どうやらステージ上の 2 人も覚悟の上のようだった。Fuma no KTR は 2 本目に「さっきから無理やりなフロー / 全く耳気持ちよくないの / しっかりビートに乗ってないの」「あんたのそのスタイルじゃ勝利の女神さえも塩対応」と真っ向勝負。吐息を交えたり、間を聴かせたりして、その引き出しの多さを見せつけた。だが、60 秒の制限時間を読み切れず、消化不良のままフィニッシュ。
一方の MAKA。二本目では、フローで応戦する構えも見せつつ、巧妙なリリックで返す。「俺の声が聞き取れない? / だったらちゃんと聞かせてあげるよ」と対話を始めると、「塩対応しょうがない / 俺のフローで女神すらビチョビチョ」。「たしかにグルーヴは良い / それでもフィジカル / 腹から声が出なければ女神は振り向かない」「これが 98 キログラムのフロー」と相手のディスに打ち返しながら、拮抗しているように見えた両者の勝負の力点をわずかにずらして自分の土俵へ持ち込んだ。
判定は、満票で MAKA に軍配。試合後には「めっちゃ泣きそう」「今年で、もしかしたらバトル出なくなるかもしれないんですけど……」と語った Fuma no KTR。試合後、両者の表情は残酷なまでに対照的だったが、ステージ上でぶつかり合ったフロー勝負はラップの奥深さを教えてくれるものだった。
 
Text by 古和康行 / Kowa Yasuyuki
Photo by Suguru Saito / Red Bull Content Pool
 
 

② 準々決勝 – 呂布カルマ×018
足を止めて打ち合う、大会の空気を一変させた「バトル」
 

 
つくづく、「60 秒」は難しいと思わされた。
国内のフリースタイルバトルで広く知られるフォーマットは 8 小節ないし 16 小節のターン制だろう。相手にディスを浴びせる、セルフボースティングする、カウンターを返す……。様々な「戦法」がある中で「Red Bull
Roku Maru」の「60 秒」というフォーマットは、バトルシーンに変化を投じる。
持ち時間が与えられる、という点においてはショーケースとよく似ている。事実、バトルに持ち歌をセルフサンプリングして、楽曲のリリースを「告知」する MC さえもいた。それぞれのスタイルを示しやすいのが、他の MC バトルとは大きく異なる点だ。
そんな大会にあって、長くシーンを牛耳る呂布カルマに真っ向から戦いを挑んだのは 018 だ。じゃんけんに勝って先攻を選ぶと、「おっさん退治余裕、60 秒なんていらねぇ」「毒吐く ロクマル」「エンタメ枠のおっさん / アンダーグラウンドから退治しにきたぜ 018(オチバ)」などと強烈なディスを浴びせる。ちなみに冒頭の言葉通り、一本目は自分のバースを 10 秒残してラップを止めるという余裕まで見せた。
対して、呂布カルマ。ベテランの域に差し掛かかる「ザ・クール・コア」は冷静に対処する。若手に「おっさん」呼ばわりされることはすでに慣れた――と言わんばかりに「レッドブル翼を授けよ 嫌われモン世にはばかる 俺はばたく 高いところから見ているバトルシーン 新顔がまたいきがってらぁ」と徹底的に見下ろす。だが、その言葉に熱が宿る。そして、目が覚める。ステージで行われているのはショーケースではない、バトルなのだと。
二本目も 018 は決して下がらない。「ペラペラしゃべっているだけ、華がないね」と吐き捨てると、「本当に俺がどこにいたって俺をレペゼン」とシャウト。「こんなやつよりフレッシュなヤングガンズ」とがなり立てて、どこまでもかみつく。
だが、呂布カルマは強い。ひとしきり相手のバースの矛盾を指摘した後に「018(オチバ)ってやつは踏まれて誰かの養分ってことだ お前に花咲かねぇ 出てきたばっかで可哀そう 名は体を表しちまうな とっくに枯れたやつの言葉 俺年とっているけどビンビンでフレッシュだ」と一撃。地力の差を見せつけた。判定は審査員全員が呂布カルマにあげることになる。だが、まるでボクサーが足を止めて殴りあうような戦いを挑んだ(しかも呂布カルマに!)018 の姿は、ラッパーとしての生き様を感じさせるには十分だった。
 
Text by 古和康行 / Kowa Yasuyuki
Photo by Suguru Saito / Red Bull Content Pool
 
 

③ 準々決勝 – MOL53 × COCRGI WHITE
人を生かすための言葉、今年のシーンを大きく変えるきっかけになるかもしれない一戦
 

 
ヒップホップにとって、ウワサやトラブルはつきものだ。2023 年、COCRGI WHITE にとってはいささか辛いものだったかもしれない。アルバムの発売時期について取りざたされるなど、シーンにいくつかの話題を振りまいた。
さて、この試合の結末は MOL53 の勝利で終わる。だが、この試合は結果以上に MOL53 と COCRGI WHITE、両者のやりとりのほうが重要だろう。
先攻は MOL53。「生かすか殺すか俺ら次第 / その右手のマイク、手のひらの賽 / 転がしたならば前を向きなさい / 振り向く暇は俺らにはない」と語りかける。奇しくも両者の服装はオーバーサイズのフーディー。目深にかぶったフードは、往時のヒップホップシーンを思わせる。そして続ける。「俺ら時代錯誤 / 時代遅れ / アナログタイプ、ステレオタイプ / 言われても捨てれねぇ信念は一つ / represent me / 胸を張って叫ぶ」「マイクは一本 / 覚悟はいいか?」。同じスタイルの COCRGI WHITE に向けた言葉は、相手を切るためでなく紡ぐために吐き出される。
対して COCRGI WHITE。「俺も仲間も流行りの音楽じゃちょっとはノれないな / 流行っている時点で二番煎じ」と呼応する。そして、吐き出すように「周回遅れの人生だが / 醜態さらした人生だが」とライムする。バトルにただならぬ空気が蔓延する。
MOL53 は二本目、「待ち望んでいるお前のアルバム / 良いのできている、多分 わかっている / お前のラップの切れ味研ぎ澄ますために俺がまずはスルーパス」と懐の深さを見せる。そして COCRGI WHITE も応じる。揺れろ、揺れろ!とバースに入る前に観客を煽り、「止まってた秒針が動き出す / このマイクロフォンが今黒く光る」「クソな俺だって仲間を歌う / 今だってあいつらの顔が浮かぶ」「いつだって底辺 / ひっくり返せればテッペン」と反省とも決意ともとれる言葉を真摯に紡ぐ。そして、バースを締めくくる。「全部自分のせい、全部お前のせい、全部取り返しにきた『俺のせい』 / 去年の自分を変えるため、COCRGI WHITE 今ここに上がる」。
ジャッジは満票で MOL53。試合後の二人の顔には笑顔が浮かび、敗れた COCRGI WHITE はこうシャウトした。「今月、アルバム出るんでよろしくお願いします」。大会終了後、審査員の ERONE はこのバトルを「MOL53 の愛のラップで、COCRGI WHITE の目が覚めた感じがうれしかった」と振り返っている。COCRGI WHITE はヒップホップシーンの重要なプレーヤーだ。MOL53 が放った「生かすため」の言葉は、今年のシーンにポジティブな”何か”を起こしそうな予感を漂わせた。
 
Text by 古和康行 / Kowa Yasuyuki
Photo by Suguru Saito / Red Bull Content Pool

開催概要

「Red Bull Roku Maru 2024」
日程:2024年1月6日(土)開場15時/開演16時
会場:WOMB(渋谷)
バトル出場者:
018
COCRGI WHITE
DOTAMA
Fuma no KTR
L.B.R.L
MAKA
MOL53
NARIMIMI
RunLine
Ry-lax
SATORU
Yella goat
瀧澤彩夏
龍鬼
呂布カルマ
予選通過者
ゲストライブ:SKRYU
審査員:漢 a.k.a GAMI, ERONE, KEN THE 390
ホスト MC:怨念 JAP, ACE
バトル DJ:DJ YANATAKE, DJ TIGU
オフィシャルサイト:
www.redbull.com/rokumaru
 
 
大会ルール
 
「Red Bull Roku Maru」の大会ルールは 1 対 1 のフリースタイルバトルで、各自の持ち時間は 60 秒・2 ラウンド制。ジャッジ(審査員)による投票でトーナメントを勝ち抜きます。日本ではめずらしい時間制フリースタイルバトルは斬新で、これまでにない画期的なバトルが展開されることでしょう。互いを罵り合うだけではなく、レッドブルのステージ上だからこそ炸裂するパンチラインには、新しい時代を感じさせる言葉の数々が生み出されます。

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