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SWATCH × AP「Royal Pop」騒動――この価値は”本物”なのか


 
2026年5月16日、Swatchとオーデマピゲ(AP)の初コラボ「Royal Pop」が発売された。パリからクアラルンプールまで、世界中の街で長い行列ができ、ニューヨークでは警察が群衆に催涙スプレーを使う映像まで拡散した。日本でも整理券、開店前から徹夜組――もはや時計というより”事件”だった。

そもそもRoyal Popとは何なのか

ここを誤解している人が多い。これはAPの腕時計ではない。Royal OakのポケットウォッチRef.5691をデザインソースにした、ポケットウォッチ型のコラボだ。中身はSwatch独自のSISTEM51ムーブメントの手巻き版を積んだBioceramic製。つまり構造的にはMoonSwatchの延長線上にある”高級なSwatch”であって、”安価なオーデマピゲ”ではない。ここを取り違えると、価値判断そのものが狂う。
 
日本の定価は税込57,200円(レピーヌ)と61,600円(サヴォネット)。Swatchとしては破格だが、APの世界では別物だ。本家Royal Oakの腕時計はリテールで3万ドルから始まる。

そもそもMoonSwatchとは


 
話を進める前に、前提となるMoonSwatchに触れておく。2022年、SwatchはオメガのスピードマスターをBioceramicで再構築した「MoonSwatch」を発売した。これがSwatchとハイブランドのコラボDNAの原点だ。安価な素材と手の届く価格でラグジュアリーの名作を”民主化”するという発想であり、発売時は世界各地で長蛇の行列と転売騒動を生んだ。この行列こそが、MoonSwatchを単なる製品ではなく文化的事件に押し上げた。Royal Popは、その成功体験をAPという別の頂点で再現した第二章にあたる。

warp・ラグストの目線で、本物の価値はあるか。

正直に言えば、”モノ”としての本物性は微妙だ。ムーブメントは非分解・非サービス前提、素材はバイオセラミック。ラグジュアリーの文脈で言う「資産価値」「永続性」はここにはない。
 
だが、ラグジュアリーストリートの価値観は本来そこじゃない。文脈・話題性・”その瞬間に身につけている意味”が価値になる世界だ。その意味でRoyal Popは、APのアイコンを首から提げるという行為そのものがステートメントになる。warpが拾うべきはスペックではなく、この”記号の使い方”だと考える。
 

6万円が40万円――転売の歪み

問題はここだ。1人1日1本という購入制限はあったものの、転売ヤーを止めるにはほとんど効果がなかった。発売当日に並んで買い、その足でネットフリマに即出品。約6万円の定価が一時数十万円で取引される異常事態になった。
身につけるためでも、好きだから買うためでもない。最初から売り抜けるための行列。これは”欲しい人に届かない”という、ドロップ文化が抱え続ける構造的な病だ。

なぜ抽選にしなかったのか

最大の疑問はこれだ。MoonSwatchの教訓があったのに、なぜ店頭先着のまま強行したのか。答えはおそらく、混乱そのものが狙いだったからだ。先述の通り行列はSwatchにとって”バイラルの通貨”であり、今回もそれを意図的に再演した。実際親会社Swatch Groupの株価はこの2週間で15%上昇している。炎上は副作用ではなく、設計された話題性だった。
抽選にすれば公平だが、絵にならない。徹夜の行列も催涙スプレーも、すべて宣伝として消費された。

ハイブランドとストリートブランドとのコラボの未来と希望

この騒動が突きつけるのは、「行列に並べる体力」や「転売資金」が”本物のファン”を駆逐していく現実だ。だが希望もある。APは収益の100%を時計製造技術の保存と次世代育成に充てると表明している。狂騒の裏で、職人技を未来に渡す仕組みは動いている。
 
ラグジュアリーストリートブランドの本懐は、転売差益ではなく”文化を着る”ことだ。Royal Popを40万で買う必要はない。相場が落ち着く頃に、本当に欲しい人の手に渡る――その健全さを取り戻せるかどうかが、この文化の未来を決める。
 

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