「デニムづくりは100年前の鉱山から見つけた端切れをつなぎ合わすことからはじまります」 MR PORTER PAPERBACK 日本語版スペシャルインタビュー#6 / スタイルある男たちのスタイルはどうつくられたのか?

藤木将己

 MR PORTER日本語版発刊スペシャルインタビュー。今回はアメリカンヴィンテージの魅力を妥協せずに復刻するブランド〈ウエアハウス(WAREHOUSE)〉のプレスとして活躍する藤木将己さん。復刻するにあたって100年以上前にあったワークウエアを探検者と一緒に探し当て、ピースごとにつなぎ合わせてつくるということから、どれぐらいこだわり抜いた商品をつくっているかがわかるだろう。大学まで野球を続けながらヴィンテージにハマり、現在はPRを支える熱き思いのルーツはなんだろうか。さっそく、話を聞いてみよう。

 この本(MR PORTER PAPERBACK)で感じたのはヴィンテージにハマったとき、憧れの先輩から教わるときはこうだったなとなつかしくなりました。手にとってみたくなるようなうまいつくりですねと、いきなりホメていただいた藤木将己さんは小学3年生から始めた野球を中学、高校、大学とやっていた。ヴィンテージには中学3年のときお兄さんが着ていた耳部分の線路上になるセルヴィッチが印象的でそこからハマったという。7年後、社会人野球をあきらめた頃、気づけば就職活動に乗り遅れたところから人生が変わる。

 ヴィンテージ好きという想いは新たな縁を結んだのだ。

 「好きなヴィンテージものを突き詰める覚悟」を決めた藤木さんはウエアハウスに入社。だが、ひとつ上の経営者の姿を見て突き詰める覚悟には、相当の知識が必要だと思い知らされる。早送りで勉強しないとムリだと気づいたのだ。
 ウエアハウスは創業からヴィンテージを再現する際に実物を手に取ってつくるという徹底したものづくりを行うブランド。ものづくりの経緯を調べるために資料を細部まで解読し歴史をひも解くことも仕事のひとつだ。そして、国内外のヴィンテージディーラーやショップで古着探究をし続ける。素材や製法などをしっかりと再現することで、ヴィンテージと変わらぬ風合いに仕上げることができるのだ。
 その最たる例がBEAMS PLUSと初めて取り組みがはじまった「DUCK DIGGERトレジャーシリーズ」だ。

 5ポケットのデニムをつくるためには100年前のものを再現することからはじまります。ベルトループがない時代の鉱山から見つけた端切れをつなぎ合わしていくんです。時代にあった本物を再現してものを確認することでしっかりつくれるんですよ。
 端切れを求めて鉱山へ専属ディーラーというエクスプローラー(探検家)と一緒に1870年から1890年代くらいに閉山したゴールドラッシュと呼ばれた時代のアメリカの鉱山脈の採掘場に行きます。観光化されているところもあり、ゴーストタウンがそのまま国定公園になっているところもあります。金や銀を掘っていた場所にはまれに当時の生活の跡が見られる部分があり、衣料の端切れや食器のかけらが出てくるところがあるんです。
 ただ命綱をつけて行かなければならない危険な場所で命の補償はまったくない。熟練したエクスプローラーが付いて行かないとできないんですけどね。
 ジーンズメーカーはリーバイスではなく同じ時代にユニークなデザインでつくっていた無数のブランドです。それを再現するんですが、そんな背景まで追うものづくりにおもしろみを感じてくれるBEAMS PLUSとずっとお付き合いさせてもらっています。

「ヴィンテージと同じ風合いで「丈感ちょうど」のデニムは古着にはないものだから火がつきました」

 ヴィンテージジーンズってほしいけど、なかなかレングスがちょうどいいのがないですよね。
 どうしてかというと背の高いアメリカ人に合わせたレングスが多いからです。当時アメリカのジーンズはオリジナルで各ウエストに合わせてレングス38までつくっていたのでシルエットはきれいなんです。ただ、アメリカ人のサイズに合わせた32とか33が多い。小柄な日本人に合う28、29インチは少ない。テーパードしているのもフルレングスで穿こうとしたらないんですよ。
 そうなるとなかなか日本に入ってこない。だったら、つくろうとなったのが2年前。BEAMS PLUSと日本人がきちっと穿けるようにレングス29に設定した「2ND-HAND(セカンドハンド)」、通称セコハンシリーズ1105。ファーストハンドは新品をいいますけど、セコハンは中古という意味。つまり60年代のリアルなヴィンテージと同じ風合いが楽しめるテーパードを効かせた「レングスジャストサイズ」の加工デニム。それは古着にはないものだから火がつきました。
 「スタイリッシュに穿ける」「シルエットも抜群」で「丈感もちょうど」でジャケットや革靴のエレガントな格好にも合うということでおかげさまですごく評判です。
 最初はBEAMS PLUS、雑誌『Begin』とそれぞれコラボをして2017年ビギンベスト100ランキングで「ジャストレングスデニム」で1位をいただきました。リアルな加工をほどこしたなかでの日本人に合ったサイズ感が選ばれたということですよね。
 
 次はレングスが選べますよという受注会をやります。30代でヴィンテージを買っていた人は間違いなく好きだし。古着が嫌いな人、生理的に受け付けない人、大事に穿きたいけどそんなに気をつかいたくない人でたとえば10万円するジーパンをバンバン洗いたくない、ヴィンテージ感を楽しめるという人に向けて気軽に本物に近いものを楽しめる、やりすぎてないデニムです。60年代のシルエットと色落ち、雰囲気で値段(24000円+税)も3万超えでないので、手に入れやすい価格設定になっています。

「日本人に合うマックイーンな着こなし。」

 いままでは生のデニムを10年穿いてくださいというスタイルでやっていたけど、なかなかいまのシーンに1週間デニムを穿く人は少ないんですよね。デニムパンツは濃い色だけ穿いてくださいという提唱の仕方はナンセンスなんです。
 
 ジーンズを土臭くワークウエアとして穿くのは歴史が証明していますが、これからは歳を重ねてきた方にも向けて組み合わせを変えたスタイルを提案していきたいですね。エレガントな革靴、チャッカーブーツ、スウェード靴を履いてもらうときに丈感というのがすごく重要だと思うのでレングスがジャストサイズではける。
 そして、ちょいワル系の浅い股上ではなくタックインしてわざとらしくない股上。股上が深いということは、パンツを上げたり下げたりが自由になるので、レングスが短くてもそのまま穿けるパターンだったり、ちょっと落としてカジュアルに穿けるパターンもいける。柔軟に合わせた股上です。
 レングスはそのまま穿く人がほとんどなので、穿き方次第でだれもがスタイリッシュに穿くにはシルエットが大事となってきます。

 なかでもスティーブ・マックイーンが出ている映画は、着こなしの参考になります。マックイーンが穿いていたイメージって裾幅が細くてやぼったくなくてちょうどいい。体型的に大きくないので日本人として参考にできるんです。ドレスダウンやアンダーステートメントの象徴ですね。
 マックイーンはスニーカーを履いていてもスタイリッシュ。なにがそう見えるのかを考えると体型がわかったうえで、絶対吊るし(そのままの状態)では着ていないと思うんですよね。ピケのパンツをセンター折りしていたり、ユーズド加工がない時代に石で洗わしたワンウォッシュのズボンでこなれた感をみせたり、あえてダメージにして新品感を出さないようにしていたり、既製品のジーンズの裾幅を自分のサイズに合わせてテーラードさせていたのは、マックイーンが最初じゃないかなと思うんですよ。コマ送りに観て研究しましたから。そのスタイルを再現しようと会社に説明したこともあります。

 藤木さんはヴィンテージという記号で歴史をひも解く考古学者のようだ。ちゃんとした裏付けがあるからこそ語れる説得力はハンパないほど知識の宝庫だ。もちろん野球(メジャーリーグ)の魅力についても語る。

 アメリカの野球は一見野蛮なように言われますが、歴史をたどると100年前のジーンズと一緒でフロンティアスピリッツにあふれた東の入植者がつくった紳士的なスポーツ文化です。ユニフォームもエレガントなつくりで素材もウールで背広しかつくれないところでつくっていたり、襟付きプルオーバーで、ボウタイをしていたり、キャスケットみたいな帽子をかぶっていたりしていたんですよ。

 その知識はプレスをやるにあたってものづくりの深さを説明するために探し求めたという。そこで知識のみならず精神性を支えるキーマンも探し当てた。

 月に1回は古本遊戯流浪堂の店主に会うために行きます。2004年の上京以来、ずっと通っている古書店で自分のスタンスや精神状態を含めて小説からスタイリングの本まで、さらっと次はこれ読んだらというおすすめをしてくれるんです。本を手に入れて通勤の1時間半で読むのが楽しみのルーティンになっています。「仕事の知識を満たされる」かつ「仕事から離れられる」の両得なんですよ。現在は池波正太郎を愛読中です。

アメリカ建国200年のときに出版された20冊ぐらいあるシリーズ本。オールドウエストの西部を開拓していった人の職種フォーティナイナーズからカウボーイなどが紹介されている。

WAREHOUSE&CO.
https://www.ware-house.co.jp/

ふじき・まさき●1974年京都生まれ。1995年大阪で創業したヴィンテージを忠実に復刻するアメカジブランドの草分け〈ウエアハウス〉のプレスを担当。業界ではヴィンテージクロージングに精通する指折りの識者として知られた存在。幼少時代から野球に明け暮れ、今も草野球に興じるなどヴィンテージと同様に野球にも傾倒している。1997年ウエアハウスに入社、2004年の東京事務所立ち上げの際に上京。紅白戦ができるほどの数のグローブを所有する野球用品愛好家。

書影
THE MR PORTER PAPERBACK
THE MANUAL FOR A STYLISH LIFE VOLUME ONE

男性はモノを購入する際に納得のいく理由や意味を見出した時、 購入に踏み切るという。また、ファッションへの不安や悩みも多いという男性も少なくない。そんな男性心理を解決してモノの価値や質の分かる30〜40代の男性顧客に向けて世界最大規模となったメンズECストアがある。それが、MR PORTERだ。

取り扱うブランドやアイテムも充実しているが、ストアの魅力は単にモノを並べるだけではない。週1で更新するウェブマガジンで、ニーズに直結した「楽しくて価値ある情報」を徹底キュレーションして掲載。 月間ページビューは2500万を超える。

「読んで買いたい」意欲を高めて、自ずと「商品購入」へとつなげたショッピングスタイルなのだ。「編集」を指揮したのは元英国版『Esquire』誌の編集長だったジェレミー・ラングミード氏。

そんな英国のメンズスタイルとエディトリアルが見られるVOLUME1の翻訳本がMR PORTERと付き合いが深いBEAMSの監修で登場。 有名人のスタイル解説から生活を楽しむヒントまで、プロたちによる価値のある情報は読んで納得、もちろんビジュアルを見ているだけでも魅力な1冊。

トランスワールドジャパン
定価:2800円(税別)

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