「ファッションの入り口は岸カジ。そこから好きなことを模索して、ディレクターといういまがあります」 MR PORTER PAPERBACK 日本語版スペシャルインタビュー#5 / スタイルある男たちのスタイルはどうつくられたのか?

溝端秀基

 MR PORTER日本語版発刊スペシャルインタビュー。今回は「永年着られる飽きのこない本物の男服」をコンセプトに、アメリカがもっともよかった頃のスタイルを提案するレーベルBEAMS PLUSのディレクターとして活躍する溝端秀基さん。時代のスタイルと伝統を踏襲しながらも現代のエッセンスを効かした服づくりは品のよさとともに長く着られるアイテムとして評価が高い。その人気ぶりは全世界で10カ国展開もさることながら、幅広い年齢層に支持されているほどだ。そんな服づくりを支えるセンスのルーツはなんだろうか。さっそく、話を聞いてみよう

 来年で20周年となるBEAMS PLUSは1945年〜1965年のアメリカの黄金期をベースのコンセプトとしている。つまり、第二次世界大戦で勝利を収めた後の1945年からベトナム戦争が始まる前の1965年までの政治経済、スポーツ、文化、芸術とあらゆる面で栄華を極めると同時にワークウエア、スポーツ、ミリタリー、アメリカンラディショナルまで機能性ある普遍的なデザインが確立した時代だ。扱うアイテムはオリジナル、インポート、一点物のヴィンテージアイテム、雑貨などを揃える。
 単に時代の再現ならば古着を買えばいいだろう。ただ、ここはBEAMS PLUSならではの「再解釈という味わい」を入れる。もちろんトレンドを加味しつつも根底には売れる・売れないなどの徹底したマーケティングもある。
 そこで、ちょうど2年ほど前の2016年のSS(春夏)シーズンからバイイングとオリジナルの商品企画とシーズンテーマの考案といったディレクションする溝端さんに台風が去った秋晴れの日、東郷神社の緑がまばゆいオフィスで話を聞いた。

「10代はヴィンテージのデニム、ガゼットが入ったスウェット」

 生まれは大阪の南と言われる貝塚とか岸和田エリアです。そこは岸和田カジュアルの略「岸カジ」文化が盛んなエリアで、洋服のジャンルでいえば古着、音楽はヒップホップでなくボブ・マーリーの影響を受けたレゲエ好きが多くいます。
 ちょうど中学2、3年のときは1995年。ぼくらの世代で言うとSTUSSYやストリートっぽいところに流れる子もいたり。エアマックス全盛期でハイテクスニーカーが登場した時代です。
 ぼくらの「岸カジ」は、基本的にヴィンテージのデニムを穿いて、V字型ガゼットのスウェットかフーディ。校則では白スニーカーのみだったので足元は白のコンバースのチャックテーラー。上級生になっていくとエアジョーダンの白が多い黒赤色のスニーカーを履けたりして、校則のギリギリのラインでおしゃれを楽しんでいました。高校もファッション漬けの三年間で、パタゴニアのフリースを学ランの襟の高さに合わせてスナップティーを持ってきて着ていましたね。そんな身近にあった「岸カジ」文化のおかげでファッションに興味を持ち出したというのがきっかけです。
 中高時代はみんな雑誌『Boon』や『カジカジ』を読んでいて、スタイリスト大久保篤志さん、野口強さん、祐真朋樹さんが活躍していた時代。そのときからスタイリストという職業に憧れていていました。

「ビームスに入ってからスタイリストになるより 「ものから提案できる」ことにたずさわれないかなと思った」

 高校2年の進路を決めるところで、スタイリストを目指すためにどういう道順を踏めばいいのかを模索しました。専門学校という手もありましたけど、芸術系の大学に進んで一回違う人脈をつくる手もありかなということで大学に進みました。そこから日本で有名なお店の店員になってお客様をたくさん捕まえればう下積みなしでスタイリストになれるのではないかと思ってビームス一本に絞って入社しました。
 入社してお客さんが増え出したタイミングで「いまやっていることって十分に街のスタイリストみたいなことになっているな」と感じるようになると、スタイリストよりも「ものから提案できる」商品の仕入、企画にたずさわれないかなと思い始めました。ファッションの入り口の環境は岸カジ。そこから好きなことを模索し出していまがあります。

「昔はとりあえず店へ行ってブラブラしているうちに新しい発見していました」

 そういえばオヤジがビートルズ好きでレコードやカセットテープをよくかけていまして小学校のときは替え歌にして歌っていましたね(笑)。だから、ビートルズはイギリスからの音楽なんて思っていませんでした。

 昔はカセットやCDだけど、いまは音楽の聞きかたがすごく違いますよね。昨日1時間半のなかで、この本(MR PORTER PAPERBACK)を一気に読まないといけないなか、おすすめの音楽記事を読んでいるうちに途中で読むのをやめて久しぶりに渋谷のタワレコ(タワーレコード)に行ってみようかと思ったんです。スタッフが作った推薦文を見たり、初めて見るアーティストのコーナーの大きさにびっくりしたり、店内を歩きながら見つける喜びがあるなと、この本から思いましたね。
 最近携帯で簡単に聞けるデジタル音楽は、SNSと一緒で検索ができるし、好きなジャンルだけに絞って聞くスタイルにすごく近いですよね。CDを選ぶときにある無数のなかから選ぶ感じではない。
 
 そうなると、「岸カジ」はいまどうなっているのかな。ほしいものはネットでも買えるから洋服を買いに行く文化がなくなってきましたよね。当時はバイト代が入ると集まって買い物に行きましたけど。買いたい店別でグループに分かれて、気づいたらどっちかのグループはカツアゲされてお金がないとか(笑)。店で待ち合わせしたり、用もないのに行く感じでしたよね。そこから新しいものを発掘したような気がします。いまの若い子はそれがないんじゃないかな。買い物に行くという行為もないし、用事がないと行かない。目の前にスマホがあるから暇つぶしができちゃう。だから出会いがないですね。

「個性を伝えるのか、TPOに合わせて個性を消すのかを考えることが「スタイル」だという気がします」

 この本(MR PORTER PAPERBACK)は、映画と音楽が身近に感じさせながらファッションを伝えていますね。単なる紹介というよりいろいろなとらえ方ができる。たとえばトム・ハンクスが出てくる映画『幸せの教室』のシーンで「ポロシャツをタックインしているから、あなたは元警官?」(MR PORTER PAPERBACK P76より)みたいなこと考えるんですよね。職業柄、テーマやスタイリングを組むときに映画のなかでこういう格好しているということは、どんな生活環境で、経済的に恵まれた家なのかを想像したりとかしながらつくったりするので、スタイルの伝えかたって大事だなとあらためて感じています。
 そういう意味でも生きるうえでスタイルは必要だと思います。冒頭にマーク・トウェインの言葉がありますよね。

「身なりが人をつくる。(服をまとわない)裸の人は、社会においては、ほんの少しか、まったくと言っていいほど影響力を持たない」(本書より)

 すごくいい言葉だと思いました。これを理解して洋服をつくったり、販売するのと、理解しないでつくったり、販売するのとでは歴然の差は出て来ると感じました。身なりがいいか悪いか別として、仮に人から見て身なりが悪くても個性が強く出ていると思うんで、個性をより伝えるのか、TPOを合わせるときはその個性を消すのか、そんなことを考えることが「スタイル」だという気がします。裸ではスタイルはまかり通らないんだろうなという気がします。なんだろうな、スタイルって。人前に出るときは格好を付けたり、おしゃれをしたり、常日頃したいなと思っていますけどね。

「あなたにはアイビーが必要じゃないですか?」 “ALL YOU NEED IS IVY”

 2018年秋冬のタイトルは「ALL YOU NEED IS IVY」。直訳するとあなたにはアイビーが必要なんじゃないですかという意味です。アメリカぽいけど、イギリスぽいものと考えたとき最初に思いついたのはビートルズだったんですね。先ほども話をしましたが、ぼくにとってビートルズはイギリスでもアメリカでもあるんです。そこで、ビートルズの曲名からインスパイアされてテーマタイトルにしています。
 アメリカ東海岸のアイビーリーガーをイメージさせてベーシックなスタイリングを組んでいて、おすすめの着こなしはブリティッシュ要素のタータンチェック柄パンツの組み合わせと、まじめにいくとダッフルコートになるけど、モッズコートのようなダウンパーカーを合わせたコーディネイトですね。 

https://www.beams.co.jp/special/beamsplus/

 たしかに今季のBEAMS PLUSが提案する多種多様なスタイリングを見ると1着ではなくコーディネイトでおさえておきたい。さらにどのシーンでもどの年齢層でもフィットしそうなラインナップだ。とはいえシーズンごとにこれだけ考え抜くのはかなり大変な作業量となるはずだ。最後に仕事が忙しいときの時間管理のティップを聞いてみた。

 重要な仕事の合間で使う時間の使い方のルーティンは守るようにしています。ちょっとしたことですけど、食事やコーヒー、電車のなかでの過ごし方、たばこの時間のルーティンです。そこだけ合わせておけば、ほかはどんなに忙しくてもなんとも思わないですね。このルーティンはメリハリをつけるためのタイミングを押すスイッチにもなるんです。

みぞばた・ひでき1982年大阪生まれ。BEAMS PLUSディレクター。神戸芸術工科大学卒業後、BEAMSのショップスタッフとしてキャリアをスタート。BEAMS UMEDAを経て東京に転勤。その後東京のショップスタッフを経て現在はBEAMS PLUSのディレクションのほか、別注アイテムの企画、バイイングを担当する。

BEAMS PLUS
https://www.beams.co.jp/beamsplus/

書影
THE MR PORTER PAPERBACK
THE MANUAL FOR A STYLISH LIFE VOLUME ONE

男性はモノを購入する際に納得のいく理由や意味を見出した時、 購入に踏み切るという。また、ファッションへの不安や悩みも多いという男性も少なくない。そんな男性心理を解決してモノの価値や質の分かる30〜40代の男性顧客に向けて世界最大規模となったメンズECストアがある。それが、MR PORTERだ。

取り扱うブランドやアイテムも充実しているが、ストアの魅力は単にモノを並べるだけではない。週1で更新するウェブマガジンで、ニーズに直結した「楽しくて価値ある情報」を徹底キュレーションして掲載。 月間ページビューは2500万を超える。

「読んで買いたい」意欲を高めて、自ずと「商品購入」へとつなげたショッピングスタイルなのだ。「編集」を指揮したのは元英国版『Esquire』誌の編集長だったジェレミー・ラングミード氏。

そんな英国のメンズスタイルとエディトリアルが見られるVOLUME1の翻訳本がMR PORTERと付き合いが深いBEAMSの監修で登場。 有名人のスタイル解説から生活を楽しむヒントまで、プロたちによる価値のある情報は読んで納得、もちろんビジュアルを見ているだけでも魅力な1冊。

トランスワールドジャパン
定価:2800円(税別)

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