「金網外の小学校ではひとりアイロンがかかったシャツ着ていた」 MR PORTER PAPERBACK日本語版スペシャルインタビュー#1 / スタイリッシュな男たちのスタイルはどうつくられたのか?

北村 勝彦

MR PORTER日本語版発刊スペシャルインタビュー。今回登場していただくのは日本において初となる男のスタイリングというものを世に提示してきた第一人者である。そのきっかけとなるのは、男性ファッション誌になかった切り口のアメリカ西海岸のスタイルを紹介し、瞬く間に人気雑誌となった『POPEYE』だ。当時特筆するほど、ファッションセンスが光っていたのは間違いない、そのセンスの源流はなんだろうか。さっそく、話を聞いてみよう。

 北村勝彦氏は日本においてスタイリストという職業を初めて確立した人物としても知られる。そんな彼が影響を受けたのは、戦後日本が貧しい時代、小学校から高校生まで、米軍基地内でアメリカの生活圏で育ちながら、基地外の学校に通っていたという環境のギャップにあるだろう。

 父親は米軍基地で、金型や金属加工の職人として軍用の重車輌など修理用の部品をつくっていた。当然、軍備に関する部署のため、機密漏れを防ぐため基地での生活を余儀なくされた。いわば「囲われの身」状態だった。
 だから、幼少期は異質で生活は金網のなかで、学校は外に通っていたわけ。日常生活のなかでアメリカというものを感じていたわけだよ。すべて、家のなかもアメリカ。完全にフローリングの部屋だったからオヤジが畳の部屋にリニューアルするぐらい。
 
 小学校の頃、すごいなと思ったのは、まず雑草が生えないこと。生えたらすぐ刈ってしまう、つねに整備されている野原しか記憶がない。野球場は必ずナイターがあって、プールと飛び込み台が別々にあって、映画館もある。
 もっと少年の心をドギマギさせたのはアメリカの消防車。消防士の防火服は質実剛健で、特にヘルメットが格好よかった。それはショックだったよね。ちょっぴり誇らしかった。

 母親は日本映画が好きだったから、外で岸恵子さんや田中絹代さん、黒澤明監督の映画とか連れて行かれた。憧れは小林旭の渡り鳥シリーズ、石原裕次郎だったけど。その頃、小林旭が履いている不良のラバーシューズが流行ったんだけど、親が買ってくれないのよ。でも後々嫌々履いているシューズのほうがすごいんだとわかったね。

 基地内の学校は卒業資格がないから、母親として行かせたくなかったこともあって外の小学校に通っていた。低学年は基地内で遊んでいたけど、高学年ぐらいになると、それぞれ趣味が変わってくるじゃない。すると、金網の外の同じ学校の子と遊ぶようになるよね。それに友達を自宅に呼ぶのに規制がうるさくて1週間前に申請しないといけない。だから、おれが外へ行っちゃうよね。

 極めて貧しい時代だったから、アイロンがかかったシャツなんて誰も着てないわけ。基地のなかだとクリーニングはタダなので軍服みたいにパキンパキンに糊が効いてかかってくるのが嫌で。学校の先生に言われると余計嫌になるわけ。子ども同士で遊んでいても、そういう日本人は極めて少ないから。そうすると、格好も日本の子(基地の外に暮らす)と同じようにしないと、妙な格好になってしまうんだよね。それが頭に残っている。

 ただ、母親としては基地のなかで買う洋服のほうが金網の外より安いから買うんだ。コンバースやKedsを履いたり、チェックのシャツとか着ていたよ。そんなファッションは日常だから、すごいということはまずないわけだよね。普通なわけ。ところが、あるときから「あ、これはちょっと違うぞ」と。基地の外の人からすると異質で、どこでそんなのを手に入るのって感じだったんだろうね。

 後々オヤジやおふくろにとって楽じゃなかったということを知るよね。やっぱり差別されていたんだ。でも、親日家の家族からキャンプへ連れて行ってくれたり、レコードもらったり、そういう印象のアメリカが強いわけよ。日本のように陰湿ないじめはなかったから、そんなに毛嫌いすることはなかったよね。ちょっと残念なのは、もっと金網なかの生活に比重をおいていたら英語堪能の北村になれたよね。

「その時代の東京の高校生はみんなVANだった。 けど、好きなものはひとつもなかったな」

 でも、東京の高校生の一部はものすごくおしゃれで、学生服のなかにB.Dシャツを着ていた奴もいっぱいいたもん。ペニーローファーやコンバースのスニーカーとかはなかなか手に入らなくて。「みゆき族」と称す風俗が生まれる前、周りにいた奴らはすごくおしゃれで、学ランをコインロッカーやボストンバッグに入れて、銀座とか六本木や赤坂に出かけていたわけ。
 その時代の高校生はみんなVAN JACKET INC.(60年代にアメリカ東海岸名門大学アイビーリーグをアイビーファッションとして流行った日本のブランド)だよ。おれの好きじゃないVANだったよ。よく呼ばれて、着ているもの置いとけって言われたもん。そのセーター置いて、店で好きなものを持って行っていいからって。だけど、欲しいものがなくて。ま、いいかといった感じで、結局、数着か頂戴しました。基地のなかの服のほうが安いんだもん。そうか、アメリカの東海岸が発祥のアイビー・スタイルを知ったのもこの頃かな。いままでは気にせずに生活していたから。

 大学行ってから、イギリスで誕生のトラディショナル・スタイルを知り、その歴史と伝統に育まれたファッションの奥深さに驚かされた。メンズ・ファッションのルーツはこれだと確信して、ますます興味がわいてきてさ。アメリカのイーストコーストって屁でもないんだって思ったな。
 でも当時は、横浜・本牧で遊んでいたから、ジュークボックスから流れていた音楽はアメリカだったね。東京の学校で、横浜が遊び場。本牧の連中は嫌がっていたけど。横浜の人間が、東京の遊び仲間を連れて来ちゃうわけだからさ。最高に嫌われていたと思うよ。なんで宙ぶらりんなんだよと見られていたから、よく殴られていましたよ。ケンカはしょっちゅう。横浜の遊び人グループによくいじめられましたよ。ちょうどゴールデンカップスが出る前だったかな。ゴールデンカップスはハンパじゃないな、凄いなと思った。デイブ平尾(リーダー・ボーカル)やルイズルイス加部(ベース・ギター)とか日本のバンドに見えなかった。音とセンスだよね。ハートは向こうの人間だったんじゃないかな。
 あと、1960年代初期のロンドンを舞台にした映画「さらば青春の光」(1979年)※、あれは影響された。スティングも出ていたよね。

※ 60年代ロンドンの時代背景にカーキ色のコートと細身のスーツを着てベスパに乗るモッズグループと革ジャンでリーゼントヘアのロッカーズと対抗など、主人公ジミーの青春の終わりを描いた映画。

「ごく普通でありたいと思っているけど、 なかなかなれない」

 この歳になってファッションだけじゃなくライフスタイルのなかでもごくごく普通でありたいと思っている。なかなかなれない。これほどむずかしいものはないなってやっと70歳になって思った。でもね、マガジンハウスにいる頃からそう望んでいたんだ。人の付き合いにしても食べ物にしても。お酒にしても。たぶん、棺桶に入ってもわかんないと思う。死ぬまで極められないと思う。 
 自主性をもって問題やテーマに向かって行く人は尊敬に値する、自分もそうありたいんだけど、それをつらぬきながら、友達やスタッフだとか、仕事に関係するする人すみずみまで、その気持ちが行き届くというか、配慮がある人、そういう人間ってホント素敵だよねと思う。だけど、なかなかなれない。

 自分が自信をもって答えられることってない。後輩を育てたと周りは言ってくれても、自分自身ではうなずけることはない。人間ってそこまで完璧になれないんだよ。どっかでずるさが出たりさ、ちょっとお利口ぶっちゃったりさ、いけないことをやったり、傷つけたり、知らず知らずでもあるんだけどやっちゃっているんだ。神様がいるとしたら僕は許されないひとりだろうなって思っている。人間ってギザギザなんだと思うよね、それを平坦にするのはむずかしいんだ。

「ダンディズムの道。「不易流行」つつしみを着るに始まり、そして終わる」

きたむら・かつひこ ●1946年大分県生まれ。横浜育ち。スタイリスト。雑誌『POPEYE』『BRUTUS』『Olieve』『ターザン』のスタイリストとファッションディレクションとして活躍した後フリーに。ファッション業界ではその名を知らない人はいない第一人者でメンズファッションスタイルを30年以上リードしてきた。米軍基地で生まれ育ったアメリカのセンスをベースにしたスタイリングで独自の世界観を作り上げ、スタイリストという職業を作った草分けと言われる。映画『おくりびと』の衣装監修。

書影
THE MR PORTER PAPERBACK
THE MANUAL FOR A STYLISH LIFE VOLUME ONE


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