1996年は何をしていましたか?

ちょうど「さんぴんCAMP」(※1)が開催された年ですね。日本のアンダーグラウンド・ヒップホップシーンが一段落終えたというか、'80年代末からコツコツとやってきたものが95年から急に芽が出始めて、ソコからは密度が濃くたった2年でいきなりドンッ! という感じ。みんなが今思うヒップホップシーンは、’96年に出来上がったような感じがします。「さんぴんCAMP」を機に、アーティストは各々がクオリティを上げていこうという感じだったんじゃないかな。ライムスターとしては、ワンマンをやろうとか、シーン全体のことだけでなく、これからどうしていくかを考えていました。ヒップホップだけでなくメロコアブームもあったり、ストリートカルチャーが本格的に始まったような時期だったのではないかと思います。

※1:1996年に日比谷野音で開催された伝説的ヒップホップイベント。それまでアンダーグランドシーンで育っていた日本のヒップホップが、このイベントにより確固たる地位を築いた。

この20年でストリートカルチャーはどのように変化していったと思いますか?

良いことも、悪いことも混在しているという感じですか。サブカルチャー誌やストリートカルチャー誌に関して言えば、2000年代や2010年前半は凄く内向きだったと思うんです。国内のものが充実しすぎて、海外をあまり見ない時期というか、世界全体の兆候と関係のないガラパゴス状態が続いて、それが行き過ぎて反省として現在の「POPEYE」みたいな誌面作りになっていったんじゃないでしょうか。ラップに関しては常に良くなっていますね。途絶えることがなく若い世代が出てきて、突然「フリースタイルダンジョン」(※1)みたいなブレイクスルーポイントも出てきたりもするし。自分たちライムスターも、ありがたいことに調子が良くなっています。

※1:2015年9月30日よりテレビ朝日で放送されている、フリースタイル(即興)のラップバトル番組。挑戦者が5人のモンスター=プロの凄腕ラッパーと闘い賞金獲得を目指す。

warpマガジンでの思い出は何でしょうか?

連載(※1)ですかね(笑)。結構、長いことやっていました……むちゃくちゃな連載を(笑)。担当だった落合くんとワルふざけをしながら、「warp」で見つけたおかしな記事を、メチャクチャいじりまくるという。最初は普通にDVDを紹介するコーナーだったんですが、途中で東日本大震災が起きて、ストリートカルチャー誌であればこういうことがあった後の誌面があっても良いんじゃないという話しを真剣にしたことを覚えています。基本ストリートカルチャーって、持たざる者たちのカウンターカルチャーだと思うんです。ストリートカルチャーとリンクした社会意識の高い若い人たちも出てきているし、「消費だけのストリート雑誌でいいのか!」みたいなことを話しましたね。

※1:warpで毎月巻末で掲載されていた宇多丸氏の連載「服買う金あるならDVD買うわ!」(2009~2012年)、「ライムスター宇多丸の WARP愛ゆえに…!!」(2012~2013年)。DVD編に関しては見ての通り、「warp愛ゆえ~」は、前号の内容に対して宇多丸氏が歯に衣着せぬ言葉で「warp」を愛のムチのごとく叩く! 褒める!? 毎月編集者はヒヤヒヤ、読者は爆笑の連載でした。

編集部のスタッフは毎月、「WARP愛ゆえに…!!」にドキドキしていました(笑)

毎月雑誌が出ると、隅から隅まで読んでゲラゲラ笑っていました。僕が1番「warp」を知っているんじゃないかな(笑)。もう、一つひとつが気になるというか。「これ先月号と同じ言い回しだろ!」とか、服のスタイリングを見せるスナップのフキダシに「これから彼女に会いに行くんだ」とか書いてあって……一体なんなのか! みたいな(笑)。世代もあるのかもしれないですけど、僕は雑誌が大好きなんですよ。’80年代の雑誌カルチャーやTVコマーシャルは凄く面白くて、バブル時代が何かを生み出したとしたらこの2つだと思いますね。最近は、なんだかどこも似てきちゃっていて寂しいです。やはり雑誌は読者の半歩先いかないとダメだと思うし、求めるものだけを提示するのではなく、求めるその先も教えてあげないと。

今後はどのようなスタンスでやり続けていきたいと思いますか?

自分はやっていることは、昔からまったく変わらないです。「blast」(※1)や「warp」でやっていた連載も、ラジオ番組や「Ameba TV」でもそうですけど、常にいろいろなカルチャーに興味を持って楽しむようにしています。面白さを見つけることが、面白いということなんですけど。だってストリートカルチャーってそういうことじゃん。スケーターは街を読み替えて面白いことにしてしまうわけだし、日本語ラップを始めた人は、それまで居た自分たちの街並が舞台になった瞬間に面白くなったと思うんですよ。何事も面白くなくなった瞬間に、終わると思っています。それと今は格好に関して何でもありで、凄く良いことだと思うんです。今はそれぞれの切り口が試されている時代なのではないかと思いますね。

※1:前身の「FRONT」から1999年に「blast」にタイトルを改め、2007年まで刊行されていたヒップホップ専門誌。宇多丸氏は「B-BOYイズム」「怪電波フロム神保町」などの連載を担当していた。

宇多丸
RHYMESTER
1969年生まれ。東京都出身。1989年の大学在学中にヒップホップ・グループ、ライムスターを結成。日本のシーンを黎明期より牽引し続け、いまだに第一線で驚異的な活躍をみせている。また2007年にTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』がスタートすると、ラジオパーソナリティとしてもブレイク。第46回ギャラクシー賞の”DJパーソナリティ賞”を受賞した。「warp」では、リリース毎にインタビューを掲載してきただけでなく、連載「服買う金あるならDVD買うわ!」「ライムスター宇多丸の WARP愛ゆえに…!!」を約4年に渡り担当をして頂いていた。

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